もうかれこれ3年近く前の話で「時効」の話だと思うし、悪い話なら書きたくないけど、いい話なのでここで共有しようと思う。
2022年の冬、僕サミーコイワはテレビへの出演依頼をいただき、全国ネットのものまね番組に出演させていただいた。尊敬する大滝詠一さんのものまねということで僕なりにベストは尽くしたかったが、シビアな歌まね番組というよりは面白おかしく笑ってもらおうというものまねが主体の番組だったため、結果的に不本意な露出となってしまい、大滝さんのすばらしさも、僕自身の良さも見せることができなかったことはどこかでお伝えした通りだが、収録の際のある出来事について話したい。
収録スタジオには普段テレビで見る(実はあまりテレビは見ないのだが)トップクラスのものまねタレントが多数収録に来ていた。テレビ局に来たのはこれが初めてではなかったし、以前は関係者としてテレビ局、ラジオ局、レコーディングスタジオなど出入りしていた時期もあったので特段緊張はしなかったが、それでも出演者として全国ネットの番組に出たのははじめてで、控室でも前室でも落ち着かない時間を過ごした。
楽屋入り、着替え、メイクと一通りの準備をし、別室でディレクター陣の前でリハをおこない、撮影時間まで控室で待機した後、自分の出番を終えた。もうこれで終わりと思っていたところ再度呼び出しがあり、出演者一同をいわゆる「雛壇」に置きたいということで、再度収録スタジオに戻るようにとのことだった。遅れては迷惑になると思い急いでスタジオに戻ると、一番早く来たのはどうやら僕のようだった。スタッフから雛壇に座るように指示されたが、正直戸惑った。誰も来ていない状態で勝手に先に座っていいのか、指定席みたいなものはあったりしないのか、後から大御所タレントが来て気まずいことにならないか、、いろいろ考えたがスタッフからとにかく座るように促され、奥の隅の席になるべく控えめに座り、収録の開始を待った。
それからタレントがひとりまたひとりと現れては、雛壇の席に着いた。立って「おはようございます」と挨拶だけはしたと思うが、正直よく覚えていない。そんな中、ある有名なタレントから強い口調で「ベテランが先!」と言われた。隣のタレントも口調を合わせるように同じ言葉を繰り返した。本当その通り、と思いながら「すいません」と一言言って雛壇の席を離れた。一言断っておくと、そのタレントは普段律儀で評判も良く、言われた言葉も決して自分がベテランだと言いたかったのではなく、きっと現場を知らない新人に対する愛のある教育的指導だったのだろうと思っているので悪い気はしていない。
局のスタッフとタレントとの板挟みになり行き場がなくなってしまった僕は、前室とスタジオの間の通路でしばらく立ち尽くしていたが、隣に来た人物にふと目をやるとあの松村邦洋さんだった。
「どうしたんですか?座らないんですか?」
まさか松村さんからそんな言葉をかけられるとは思いもしなかったが、僕も率直に「実はスタッフに早く座れって言われて座ってたんですけど、○○さんからベテランが先だろ!って言われて座れなくなったんですよ」とありのままを松村さんに伝えた。すると
「じゃあ僕もここで待ってます。ベテランが座るまでここにいましょう」
と言い、しばらく僕と一緒に通路に立っていてくれたのだ。その後松村さんはスタッフに促され雛壇へと向かっていった。結局僕は雛壇には要らないということになり、控室へと一人で戻った。それでよかった。正直、ベテランが先だろうと言われてしまった現場にまた戻らなくてよくなった僕は喜んでスタジオを後にし、駐車場へと向かった。
ベテランものまねタレントの松村邦洋さん、そしてレジェンド作詞家の松本隆さん。自分がどこまで上りつめても威張らない。対等な目線で接してくださる。僕ももちろんそうありたいしそうしているつもり。後輩、部下、子ども、、いろんな場面で自分が上位に立つこともあるが、僕も決して威張らない。威張らない方がかっこいいし何より気持ちが楽。
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